長浜町家再生バンク
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この人の暮らし方

米川辺の暮らし

2013.11.12

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「いつか古書店主になりたい。」
ずっと前からそう思っていたと言う中村恭子さん。
3年前、ぶらりと訪れた長浜に一目で惚れ込み、北九州から移り住んでまちなかに小さな古書店を開いた。
琵琶湖畔の印象にちなんで屋号は “さざなみ古書店”
その名のとおり、中村さんの暮らしかたは「水辺」とともにある。

 
 

琵琶湖畔のまち長浜には、大小たくさんの川や水路が流れ、
中でもくねくねとした曲線を描いてまちを横切る “米川” は、
川辺の石積みを見ると、あちこちに “かわど” と呼ばれる石段がある。
家庭では野菜や漬け物の洗い場として、商家では運搬や往来の手段として、
ずっと昔から、この米川は長浜の町衆の暮らしと深く結びついてきた。

 
 

さざなみ古書店は、祝町の商店街に面した通称 “さざなみ通路” のオクにあり、
中村さんの住まいは、そこから更にロジを進んだ小さな庭のオクにある小さな家だ。

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商店街に面した“さざなみ通路”の入り口

 
 

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住まいの前の小さな庭

 
 

「きっともともとは隠居部屋として作られた一画なんでしょうね。」と中村さん。
町家のオクの、そのお宅はお世辞にも立派ではなく、決して広くもない。
しかし中へ入ったとたんに中村さんがここを気に入った理由がわかり、わー!っと声が出てしまう。

 
 

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川辺の窓

 
 

「毎日米川を眺めていてもほんとに飽きませんよ。」
季節や天気や時間によって川の様子はいつも違っていると言う。
春先には草木が芽吹いて虫や鳥が動きだし、
暖かくなると小鮎たちが泳ぎ始める。
夏の盛りは生き物たちの活動がますます盛んになって、
ヘビやイタチまでもが水浴びをする姿を見かけるそうだ。
「人間だけでなく、いろいろな生き物たちが暮らしているそのそばで、自分も一緒になって暮らしているという幸せを感じます。」
という言葉に大いに賛同した。まちにはこんなにも瑞々しい環境があるのだ。

 
 

窓先の小さなスペースに所狭しと草花を育て、
座り心地の良さそうなソファーは、あたかも川辺を眺めるために置かれたような特等席。
隅々まで住まい手のさりげない主張が現れている。
ふと、古書店で見かけた本に耽る静かな時間が想像された。

 
 

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小鮎の群れ

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かわど

 
 

「昔このかわどにどんな人の舟が着いたのか、想像すると楽しくなりますね。」
「曳山まつりが近づくと、太夫や三味線の音色が聴こえてくる中で月を眺めるんです。」
「こないだの台風のときには、なんと小鮎たちが濁流を避けるようにここに身を寄せて隠れていたんですよ。」

 
 

大好きな環境に興味津々な中村さんのお話を聴いていると、何気ないことがこんなにも楽しいのかと気づく。
素敵な環境があるということだけではなく、それを正面から楽しもうとする住まい手の心持ちが重なって、そこに暮らす魅力が何倍にも広がっているのだろう。

 
 

さざなみ古書店
長浜市元浜町14−23