長浜町家再生バンク
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中庭と小さな離れのある明るい町家

2019.02.08

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間取り図


賑やかな商店街エリアから北へ徒歩5分の閑静な住宅街。間口3間、奥行10間のコンパクトな長浜町家の典型。小さな中庭を囲うように、光がよく入り、風がよく通るように工夫された軽快な雰囲気です。

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京町家の影響を色濃く受けつつ、長い年月を経て独自の洗練を重ねてきた長浜町家。間口が狭く奥行きが深い敷地の中には、入り口側から表間・中の間・奥の間と部屋が続いて、それに並ぶかつての通りニワだったスペースがキッチンとして使われて、奥には中庭を挟んで離れや蔵が続く…と、ベーシックな間取りは共通する部分が多いのですが、ではどこのお宅も同じような雰囲気かというとさにあらず。わずかな幅の戸や壁がどこにあるか、若干多いか少ないか、小さな段差をどこでまたぐか、そんなディテールの積み重ねによって家全体の雰囲気は驚くほどに左右されるのです。かつて大工を営んだ父子が自宅として建てられたというこの家は、そういった気配りがあちこちに施されていて明るく清潔で、生活動線や部屋と部屋とのつながりかたや距離感がとても見事に調整されています。家同士が隣り合うまちなかの、決して広くはない住まいの中に、メリハリを利かせながら、暮らしを営むための様々な空間と機能をしっかりと設える、町家暮らしを楽しむにはうってつけの一軒です。

間取り図を見ると、居室の広さを必要十分に抑えながら、家全体に収納スペースがしっかりと確保されていることがわかると思います。各室の生活に必要な、あるべきものをあるべき場所に備えることができることによって、部屋の佇まいも、生活動線も、結果的にすっきりするのは誰しも経験されていることでしょう。けれども「ああしたい」「こうしたい」を盛り込んでいくうちになかなかできないのが世の常。それをスマートにやってのけながら、各スペースに十分な光が入り、風が通り、家族が穏やかに暮らせるようにと、棟梁が自ら工夫を凝らして建てた家。しみじみ見ればそれが確かに伝わってきます。
とりわけ、中庭の周囲の軒下にぐるりと巡らされた土間スペースはお見事。生活動線に沿いながら十分なゆとりを持って家事スペースが配置された空間全体は、屋根・壁から光が入って(大げさに言えば)サンルームのように明るく、なおかつ夏場は涼しい風がしっかり通るように開け閉めできる建具が惜しみなく用いられています。小さな庭が渡り廊下によってさらに小さく2つに分かれていることにも注目してください。座敷から縁側越しに見える中庭と、洗濯物を干したりという生活のための裏庭とを分けることによって日常のちょっとしたシーンの一つ一つが雑然としないように配慮されています。まるで建築家との綿密な打ち合わせを幾度も重ねて実現する現代の注文住宅のような細やかさです。

現代のライフスタイルを営む上で気になるのは、上水と寒さ対策でしょうか。
現オーナーさんはこれまで井戸水を使って生活をされてきたそうですが、数か月前に枯れてしまったとのことで上水道への接続が必要です。建具が多く明るい空間は、逆に言えば冬場の熱損失が大きく、エアコンがあれば十分快適というわけにはいかないでしょう。
自然エネルギーの再考論が高まるいま、澄んだ井戸水や通風と採光を大切にした昔ながらの暮らしの器をどのように見立て、これからの暮らしをどのように描くか。そんなことを想像しているとイメージがどんどん膨らんでいく、そういった方におすすめします。
各部にしっかりと残されている素朴な風合いの土壁も、丁寧に磨かれた木材も、新しい暮らしの中で確かな存在感を放ってくれるでしょう。